僕は脳裏に焼きついたあの夢を早くまぎらすために外に出ていた。
電灯ひとつないコイラの町はあたりの暗さと同化していて、僕はその不気味に静まりかえった道を歩きながら、夢のことを忘れようとこれからのことを考えていた。
今日の戦いでたった一匹のダースを倒すのに一苦労だったのに、これから何十、何百と戦っていくのかと思うと命がいくつあっても足らない。
かといって世界が滅びるのを黙って見ているのも嫌だ。
もし、僕が戦ったら世界は平和になるかもしれない。
もし、ここで引き返せば戦って死ぬよりはましな生活をおくれるかもしれない。
どちらの道を選ぶのか……この選択で僕の人生は180度変わる。
いろんな考えが交差して、ティアラからの問いになかなか決断できなかった。
しばらく歩いていると、町の中央にある噴水がきれいな広場に着いた。
たまに農場から買い物に行くときこの広場のベンチで休んだっけな。
もうそんな生活にも戻れないかもしれない。
広場の中心にある噴水の近くまで行くと、こんな真夜中に人が一人で立っていた。
暗くて顔が見えなくて誰だか分からなかったが、ちょうど月を隠していた雲が晴れて、月明かりがその人を照らす。
ティアラだ。
彼女の方はまだ僕が近くにいることに気づいてないらしい。
ただ噴水の前に立って、吹き出る水を眺めていた。
その顔は森であった時や僕らに話していた時とは違って悲しそうで不安な表情をしていた。
あの時はダースの襲撃で話す暇などなかったが、僕はあの四百年の話について詳しく聞きたかったし、ティアラについて知りたかった。
「何してるの、こんな時間に。」
いきなり声をかけられて彼女は驚いた表情になっていたが、すぐにさっきの悲しそうな顔に戻った。
二人とも無言になった。
何か言った方がいいと思ったが、何て言っていいか思いつかなかった。
結局数分間沈黙が続く。
自分の心臓の音が聞こえるようなこの空気に耐えられなくて先に僕から話を切り出した。
「昼間の話について聞いて良いかな?どうしてこの時代に君みたいな女性が来たの?」
一瞬間をおいてティアラは答えた。
「あなたは…たしかシオンさんでしたね。」さんづけされたのは母親以来だ。
「それは、時を越える魔法を使う日に何百ものダースの大群が王国を襲い、本来行くべきはずのお方が亡くなってしまったからです。でも時わたりの話は西の国では誰もが知っており、その目的も承知しておりました。それで代わりとして…魔法の技術が高かった私が選ばれたのです。魔法は男女や年齢で強さが決まるわけではないので…なっとくできました?」
僕の脳裏に浮かぶ光景――炎に包まれる町、荒らされる畑、逃げ惑う人々――ティアラはあの日よりもっと悲惨な状況で急に”未来へ行くか、行かないか”という選択を迫られたのだろう。
「それじゃ家族や友達、国が心配なままこの時代に来たんだね…」
「確かに心配です。先ほどセブネルさんにこの時代のことについて話を聞いた時も、西の国についてほとんど知らないようでしたので…しかし、ここで立ち止まっては私という希望を未来に行かせようとして死んでいった者たちに会わせる顔がありません。だから、あの方たちのために、私の活躍を待つ人たちのためにも私はダースを滅ぼさなければならないのです。」
その目はさっきとは違う決意に満ち溢れていた。それがティアラの戦う理由なんだ。僕の戦う理由は…
僕が考えている間に、ティアラが一息ついて口を開けた。
「ありがとう。シオンさんのおかげで私の迷いもふっきれましたわ。」
なんだかわからないが、元気になったみたいで良かった。
+ + + + + +
小一時間ほどは話しただろう。
僕が一方的に、魔法のことや400年前のことなどをティアラに質問攻めにしていた。
鳥の鳴き声が聞こえ始め、あたりが明るくなっていた。
「そろそろ戻ろうか。セブネルさんも心配してると思うし。あの人毎日、日が昇る前には起きているからさ。」
噴水に背を向け前来た道を戻ろうとしたとき、ティアラが恐る恐る質問をした。
「シオンさんは……私に協力してくれますか?」
もう心の中は決まっていた。
ティアラは右も左も分からないこの時代にたった一人で来て、ダースからこの世界を守ろうとしている。
だから、僕も死への恐怖を捨ててダースに立ち向かう。
僕の好きなこの世界、この目に映る景色を守るために。
だからこれから旅を共にする仲間として彼女に言いたいことがあった。
「そのシオン”さん”ってやめてくれないかな。なんか恥ずかしいからシオンで良いよ。僕も君のことティアラって言うから。あと敬語もできれば……なんか堅苦しくて。わがままかな?」
僕の返事を聞くと、くすっと笑って微笑んでいた。
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