宿に戻ると部屋の中には窓から差し込んでくる光を背にし、イスに座っているセブネルさんの姿があった。
ひとつ、いつも見たことのある光景と違っていたことは腕を組んで何かを考えていたことだ。
別に考えてる所を見たことがないというわけではないが……あの人が考えごとなんて珍しかった。
僕とティアラは邪魔にならないように静かに横を通り過ぎようとした時、突然セブネルさんが立ち上がってティアラの前まで歩いて行った。
立ち止まり一回軽く深呼吸をする。
「オレは行くからな。一緒にこの世界を守ろう。」
さっき度への決意を言った僕にはこの短い言葉の中に込められた様々な気持ちがわかる気がする。
「ありがとうございます。これで全員決まりましたね。」
ティアラがほっとしたのもつかの間、セブネルさんが僕の方を一度向いてからティアラに言った。
「全員か……ちょっとシオンと話をしていいかな?」
そう言って、セブネルさんは隣の部屋に入っていった。
僕も後についていく。なんだろう話とは。
部屋にはいると、セブネルさんが真剣な眼差しで僕を見ていた。
セブネルさんの口が開く。
「ひとつ聞くが、シオン……この旅がどんな過酷なもんなのか承知で行こうとしてるんだな?」
「分かってます。生きるか死ぬかの旅だということも…」
セブネルさんの問いに僕は即答した。
「お前には関係なさすぎる。」
「僕に関係なくて、セブネルさんには関係あるんですか?」
僕の発言に少し戸惑ったようだが、すぐにセブネルさんは言い返す。
「ましてや、まだ17歳だぞ。若者がこれからの時代を背負っていくのに、死んだら元も子もないだろ。」
確かにセブネルさんの言っていることも一理ある。でも……
「分かってますよね。僕が他人にレールを敷かれるのが嫌いだってこと。」
数秒の間にらみ合いが続いたが僕の熱意に負けたのか、ため息をついてセブネルさんが言った。
「そうだったな。それが嫌で家を飛び出してきたんだもんな。俺が悪かった。シオンの決心も固いみたいだしな。」
と言って部屋のドアまで歩いていった。
「最後に聞く、全部片付いたらもう一度あの農場でお前を雇う。だから生きてこの地に帰ることを今ここで誓え。」
「再び生きてこの地に帰ってくることを誓います……というか僕の将来は農家決定?それじゃ家を出た意味がないじゃないですか。」
それを聞いたセブネルさんは真剣な顔つきからいつもの優しい表情へと変わっていた。
「ハッハッハ、そりゃそうだな。俺がシオンの人生決めちゃならねぇな。でも農業は楽しいと思うんだけどなぁ〜」
そう言ってセブネルさんは笑いながら部屋を出た。
農業を楽しくないと思ったことは一度もない。むしろ農家になるのもいいかと思う。
だからセブネルさんがもう一度雇うと言ったとき、本当はとても嬉しかったんだ。
僕が部屋を出ると二人はこれからの計画について話していた。
「ここから首都グーレンを目指し西へ、それから北に向かいます。」
「そこに何があるんだ。俺は行ったことはないが確か北西地域は人がいない森林地帯だ。そんな所にいってどうする?」
その場所はこの国の人なら誰もが知っている場所でグラミティアの落下地点に近いはずなのに、ほとんど影響を受けなかったことで神の加護を受けているとまで言われている有名な聖域だ。
だから人もそこには村や町などを作ったりはしなかった。
実際には作れなかったというのが正しいのだろう。
作ろうとすれば行方不明者が何人も出たり、もってきた資材が急に消えたりと不可解な現象が起こっていると言われている。
僕たちはそんな場所に向かおうとしているのだ。
「私はそこがどんな地域かまでは知りません。ラオ様が底池といわれているだけなので……ですが、そこに予言者ラオ様がいる。もしくはラオ様が残したメッセージがあるのでしょう。」
目的地も決まった……そんな僕たちを後押しするかのように窓からさわやかな風が入ってくる。
気持ちの良い旅立ちの朝だった。
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